節税とは、税法上の制度を用いて税負担を軽減することです。
制度から逸脱した状態での利用は「脱税」(=違法)になりますが、法律の範囲内で正しく利用すれば払い過ぎた税金が戻ってくる等、お得になります。
ここでは様々な節税の種類とその概要、その中でも積極的に利用したい制度を解説して行きます。
1.控除の種類
一般的なサラリーマンが節税する場合は、主に「所得税」の仕組みを利用することになります。所得税を減額する制度としては、所得から一定の金額を差し引いて課税対象となる所得金額を減らす「所得控除」と、課税所得金額に税率を掛けて算出した所得税額から一定の金額を控除する「税額控除」、の大きく2つがあります。それぞれの控除には多くの種類があり、対象者や控除金額は種類によって異なります。
1ー1 所得控除
(1)雑損控除
災害又は盗難若しくは横領によって資産に損害を受けた場合等に、一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。
(2)医療費控除
生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合において、その支払った医療費が一定額を超えたときに、その医療費の額を基に計算される金額の所得控除を受けることができる制度です。
(3)社会保険料控除
生計を一にする配偶者やその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合において、その支払った金額について所得控除を受けることができる制度です。
(4)小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金等を支払った場合には、その支払った金額について所得控除を受けることができる制度です。
(5)生命保険料控除
生命保険料、介護医療保険料及び個人年金保険料を支払った場合に、一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。
(6)地震保険料控除
特定の損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料又は掛金を支払った場合に、一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。
(7)寄付金控除
国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し「特定寄附金」を支出した場合に、所得控除を受けることができる制度です。なお、政治活動に関する寄附金、認定NPO法人等に対する寄附金及び公益社団法人等に対する寄附金のうち一定のものについては、所得控除に代えて税額控除を選択することができます。
(8)障害者控除
同一生計配偶者又は扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合には、一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。なお、障害者控除は、扶養控除の適用がない16歳未満の扶養親族を有する場合においても適用されます。
(9)寡婦控除
納税者が寡婦であるときに、一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。
寡婦とは、原則としてその年の12月31日の現況で、いわゆる「ひとり親」に該当せず、次のいずれかに当てはまる人です。納税者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいる場合は対象となりません。
(10)ひとり親控除
納税者がひとり親であるときに、一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。
なお、ひとり親控除は令和2年分の所得税から適用されます。
(11)勤労学生控除
納税者自身が勤労学生であるときに、一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。
(12)配偶者控除
納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合に、一定の金額の所得控除が受けられる制度です。
- (1) 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません。)。
- (2) 納税者と生計を一にしていること。
- (3) 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
- (4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
(13)配偶者特別控除
配偶者に48万円(令和元年分以前は38万円)を超える所得があるため配偶者控除の適用が受けられないときでも、配偶者の所得金額に応じて、一定の金額の所得控除が受けられる制度です。なお、配偶者特別控除は夫婦の間で互いに受けることはできません。
(14)扶養控除
納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合に、一定の金額の所得控除が受けられる制度です。
(15)基礎控除
他の控除と異なり、全ての納税者に合計所得金額に応じた一定の金額の所得控除が受けられる制度です。
1−2 税額控除
(1)配当控除
国内株式の配当金などの配当所得がある場合に、一定の方法で計算した金額の税額控除を受けることができる制度です。なお、申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得については、配当控除は適用できません。
(2)外国税額控除
日本で課税される所得の中に外国で生じた所得があり、その所得に対してその外国の法令により所得税に相当する税金が課税されている場合に、一定額を控除できる制度です。日本および外国の両方で課税されること(二重課税)を回避できます。この控除を受けるためには、確定申告書の提出の際に一定の書類を添付する必要があります。
(3)政党等寄附金特別控除
政党又は政治資金団体に対して政治活動に関する一定の寄附金を支払った場合に、寄附金控除(所得控除)の適用を受ける場合を除き、一定額を控除できる制度です。
この控除を受けるためには、確定申告書の提出の際に一定の書類を添付する必要があります。
(4)認定NPO法人等寄附金特別控除
認定NPO法人等に対して一定の寄附金を支払った場合に、寄附金控除(所得控除)の適用を受ける場合を除き、一定額を控除できる制度です。
この控除を受けるためには、確定申告書の提出の際に一定の書類を添付する必要があります。
(5)公益社団法人等寄附金特別控除
一定の寄附金のうち、次のイからトまでに掲げる法人に対するものについて、寄附金控除(所得控除)の適用を受ける場合を除き、一定額を控除できる制度です。
この控除を受けるためには、確定申告書の提出の際に一定の書類を添付する必要があります。
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- イ 公益社団法人及び公益財団法人
- ロ 学校法人等
- ハ 社会福祉法人
- ニ 更生保護法人
- ホ 国立大学法人
- ヘ 公立大学法人
- ト 独立行政法人国立高等専門学校機構及び独立行政法人日本学生支援機構
(6)(特定増改築等)住宅借入金等特別控除
個人が住宅ローン等を利用してマイホームの新築、取得又は増改築等をした場合に、その取得等に係る住宅ローン等の年末残高の合計額等を基として計算した金額を、居住の用に供した年分以後の各年分の所得税額から控除できる制度です。
(7)住宅耐震改修特別控除
自己の居住の用に供する家屋について住宅耐震改修をした場合に、一定の金額を控除できる制度です。
この控除を受けるためには、確定申告書の提出の際に一定の書類を添付する必要があります。
(8)住宅特定改修特別税額控除
一定の要件を満たす次のイ~ニまでのいずれかの改修工事又はこれらの改修工事を併せて行った場合に、一定の金額を控除できる制度です。この控除は、上記(6)との選択適用となります。
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- イ バリアフリー改修工事
- ロ 省エネ改修工事
- ハ 多世帯同居改修工事
- ニ 耐久性向上改修工事(住宅耐震改修や上記ロの改修工事を併せて行うものに限ります。)
この控除を受けるためには、確定申告書の提出の際に一定の書類を添付する必要があります。
(9)認定住宅新築等特別税額控除
次のイ又はロの住宅の取得等をした場合に、標準的なかかり増し費用を基として計算した金額を控除できる制度です。この控除は、上記(6)との選択適用となります。
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- イ 長期優良住宅の普及の促進に関する法律に規定する認定長期優良住宅に該当する家屋で一定のもの(以下「認定長期優良住宅」といいます。)の新築又は建築後使用されたことのない認定長期優良住宅の取得
- ロ 都市の低炭素化の普及の促進に関する法律に規定する低炭素建築物に該当する家屋で一定のもの又は同法の規定により低炭素建築物とみなされる特定建築物に該当する家屋で一定のもの(以下「認定低炭素住宅」といいます。)の新築又は建築後使用されたことのない認定低炭素住宅の取得
この控除を受けるためには、確定申告書の提出の際に一定の書類を添付する必要があります。
積極的に利用したい制度
サラリーマンであれば会社からの連絡で年末調整を行うため、「医療費控除」や「配偶者控除等」ある程度の制度を意識しなくても利用することになります。また、住宅購入時などは販売会社から「住宅借入金等特別控除」の概要をアナウンスしてくれるため、その際に制度を利用しようと意識することが出来ます。
一方で、知らないと利用することが無い、利用しないとお得を逃す、ような制度もあります。
ここでは積極的に利用したい制度をいくつか紹介します。
確定拠出年金(iDeCo等)
公的年金を補うために導入された制度で、掛け金を自分自身で運用しながら積み立てて、原則60歳以降に年金や一時金として受け取ります。企業型と個人型(=iDeCo)の2種類があり、投資信託や預貯金,保健商品から選択して運用することで、下記のような節税メリットが得られます。
(1)掛け金が全額所得控除
(2)運用益が非課税
(3)受取時にも各種控除が適用
このように「長期に積み立て」「原則60歳以降の受け取り」「様々な節税メリット」の特徴から、いわゆる「老後2,000万円問題」に対応するための資産形成方法として是非利用したい制度です。
サラリーマンの場合、勤め先の企業によっては企業型と個人型(=iDeCo)が併用出来ない等、成約される場合があるので注意が必要です。
NISA
少額からの投資を行う個人のために導入された制度で、毎年一定金額の範囲内で購入した株式や投資信託などの金融商品から得られる配当金や値上がり益が非課税になるメリットが得られます。
NISAには、NISA(一般NISA),つみたてNISA,ジュニアNISA,の3つがあり、それぞれ運用期間や上限金額などが異なります。
NISA(一般NISA)とつみたてNISAは併用出来ないこと、ジュニアNISAはその名の通り子供が対象となっていること、NISA(一般NISA)とジュニアNISAは2024年のNISA制度変更の影響を受けることから、今から利用するとしたらつみたてNISAが最有力です。
確定拠出年金(iDeCo等)に比べると節税メリットは「運用益が非課税」の1点だけですが、運用期間や引き出し時期の制約はあまり無いので、老後前にまとまった資金を必要とする場合や、老後に確定拠出年金(iDeCo等)の上乗せ資金としたい場合等の資産形成方法として利用したい制度です。
ふるさと納税
自分の選んだ自治体に寄附を行った場合に、寄附額のうち2,000円を越える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度で、下記のようなメリットがあります。
(1)好きな自治体に寄付できる
(2)寄付金の使いみちを指定できる
(3)返礼品がもらえる
尚、ふるさと納税制度による控除額には上限があり、収入や家族構成によって上限額が変わります。控除上限額以上の寄附をしても控除対象にならないので注意が必要です。
また、ふるさと納税として寄附を行った金額について控除を受けるためには、「寄付金控除」として確定申告をするか、ワンストップ特例制度(ふるさと納税先が5団体以内に限る)を利用して申請する必要があります。
手続きに多少の手間は掛かりますが、同じ税金を払うのであれば、ふるさと納税のメリットを享受した方がお得です。
まとめ
サラリーマンが「節税」する場合に利用する「所得税」の減額制度である「所得控除」と「税額控除」について、また積極的に利用したい制度として「確定拠出年金(iDeCo等)」「NISA」「ふるさと納税」について解説して来ました。
制度を知ることで「節税」の選択肢は色々と増えて来ます。その中から、ご自身の無理の無い範囲で制度を利用するようにして下さい。